「ボイス・レコーダー」(TBS)視聴後、雑感。

◆TBSは真面目に描いていましたね

 

 見なかった人はごめんなさい。

 ドラマとドキュメンタリーを併せた構成にして良くまとめましたね。

 一応、一般庶民が見た場合、高浜機長の遺族がこの20年間味わってきた悲しみ、絶望、というようなことが、印象に残るでしょう。それは、正しい。

 実際、誰かの手によって、本来は、絶対に一般に公開されることがない、コクピット・ボイス・レコーダーが、リークしたのは、5年前でした。



 2000年8月8日のTBSの夕方のニュース番組、「ニュースの森」で、なんと、ボイスレコーダーの音声が電波に乗って、全国に放送されたわけです。

 この時のニュースキャスターは、松原耕二氏(現在はニューヨーク特派員)だったのですが、彼は、もともと記者です。

 とはいっても、日航123便が墜落したときには、入社2年目の駆け出しで、まだ、記者としては経験豊富とは言えない年齢でしたが、とにかく、自分で遺族の取材に携わった経験があるのです。

 デスクに命じられて、遺族会結成の動きを探るとか、やりたくないけれどやらなければならない辛い仕事だったようですが、非常に誠意をもって、遺族に接したので信用されたのですね。(その時の経験を、昨日も紹介したけれど、勝者もなく、敗者もなくという本に書いています)。

 ちょっと余談になりますが、8月12日は松原氏の誕生日だそうです。

 だから、というわけではないでしょうけれども、2000年8月8日のニュースの森でボイスレコーダーを放送したときも、扇情的ではなく、報道に「情」がありました。


◆2000年8月8日、初めてあのボイスレコーダーの音声を全国民が聞いたのです。

 

 この実際の音声が公開された意味は大きかった。

 それまでも、ボイスレコーダーに記録された会話を文字に起こしたものは、公表されていたのですが、文字ではやはり、コクピットの緊迫感が伝わらない。

 だが、あの音声を聞けば、機長、副操縦士、航空機関士の、最後まで全身全霊で、機を何とか立て直そう、と頑張っていたことがわかる。

 これで、まず、遺族が随分慰められた。そして、コクピットクルーの遺族が救われた。



 ドラマでは、最後近くに山本学扮する、「遺族の一人」が、

 「高浜機長の奥様ですね。機長は最後の最後まで頑張ってくださったのですね。ありがとうございました」と言ってくれた。片平なぎさ扮する奥さんは、泣き崩れます。

 劇中でも描かれていたけれど、高浜機長の未亡人への嫌がらせはすさまじかったのです。というか、あんなものじゃなかった。

 「500人も人を殺しておいて、お前ら(機長の遺族)はよくおめおめと生きていられるな」という類の嫌がらせ電話が毎日何十回も、何年も続いたのです。

 奥さんの精神的苦痛は察するにあまりある。そもそも事故の原因は分かっていなかったのです。機長の操縦ミスであるなどという報告は一切無かった。

 よしんば、万が一、機長に責任があったとしても、「機長の奥さん」に何の責任があるのですか。

 卑怯じゃないですか。

 ただでさえ、悲嘆に暮れているパイロットや乗務員の家族に、自分の名は名乗らずに嫌がらせの電話をするなどという卑劣な行為は絶対に正当化出来ません。

 しかし、奥さんは、高浜機長が生前「飛行機で起きたあらゆることの最終責任は機長である自分にあるのだ」と何度も言ってたから(パイロットは皆、その覚悟で操縦桿を握るわけです)、一切口答えせずに、只ひたすら 「申し訳ありません」を繰り返していた。

 いたけれど、肚(はら)の中では、百万語が煮えくりかえっていたことでしょう。それでも、それを誰にも言えないで我慢していた。

 ところが、ボイスレコーダーの音声が放送されたことにより、山本学のようなことを言ってくれる乗客の遺族が大勢現れた。

 劇中、奥さん役の片平なぎさの号泣は、高浜機長の奥さんの15年間にわたる無念が漸く慰められた、ということを表現した訳です。

 乗客・乗員、それぞれの遺族の悲しみを改めて思ったのでしょう。2000年8月8日「ニュースの森」での松原キャスター(記者)は、コメントを述べるつもりが、感極まり、涙があふれて、殆ど聴き取れないほどでした。

 同じ音声はテレ朝のニュースステーションでも使われていたけれども、久米宏はそこまで思い入れが無いから、単なる「史料」としての扱いでした。

 あの時の報道に関してはTBSが間違いなく全マスコミの中で最も優れていたと思います。


◆ボイスレコーダーが何故、放送局の手に渡ったか

 

 劇中では、匿名の封筒が日航パイロットで独自の事故調査を続けていた竹中直人のもとに送られてきた。他の放送局にも。

 なんと、資料保存期限を理由に、当時の運輸省は123便事故調査報告書、その他関係資料を全て廃棄処分にしようとしていたのですね。これは本当らしい。

 520人が亡くなった大事故の資料を闇に葬り去ろうとしていたわけです。日本政府は。

 おかしいですよね?

 普通、これほどの大事故の資料ならば永久保存にするべきでしょう。

 それを、たったの15年で全部捨てようとしたのは、匿さなければならない、まだ、国民が知らない重大な事実があるからだ、と推察するのが最も自然です。

 それを、放っておけないと考えて内部告発した人物が(運輸省に)いたわけですね。そこはあまり詳しくドラマにすると誰だか分かってしまうので、さらっと流していたけど。
 とにかく、資料破棄なんて、とんでもないことですよ。

 繰り返しますが、とんでもないことをしようとしていたからには、それなりの「とんでもない」何かがある、と考えなければいけません。

 それは、ネットで少し検索すれば、読み切れないほど、諸説紛々であることがわかります。

 なかには、自衛隊か在日米軍の誤射だ(つまり、間違って撃墜された)というようなのまであるけど、それはちょっと荒唐無稽ではないかと思います。


◆航空関係者の間ではタブーらしいですね。

 

 事故当時、ずっと、123便と交信していた所沢の東京コントロールでは、123便の話題はタブーだそうです。このことに深入りすると命が危ないと言う人までいる。

 また、パイロットは、誰も「圧力隔壁の破断による油圧系統の損傷」を信じていないそうです。

 ここからは、全く何の確証もない、つまり「噂」ですが、私の印象として、一番多いのは、米軍機との接触により、垂直尾翼その他が破壊されたという説ですね。

 明らかにやばいですよね。本当だとしたら。ただでさえ、在日米軍を快く思わない人がいるんですから、それが事実なら、大変な騒ぎになる。

 だから、闇に葬った、と。あくまで「うわさ」です。

 今日のドラマが良く出来ていたけれど、エンディングがすっきりしなかったのは、それが理由です。

 いずれにせよ、「123便が墜落した、本当の原因は何かとんでもないことらしいが、闇に葬り去られようとしている」という噂があることは、覚えておいて良いかもしれないですね。

 「国家」はこういうとき、「なんでもあり」、ですから。怖いです。

 話が長くなりましたけど、今日のドラマでは、そこまでは描かれていなかったので補足しました。


by j6ngt | 2005-08-13 03:32 | 航空機事故


<< 123便にまつわること。コクピ... 日航123便はあの30分が全て... >>