ピアノの本当の美音。アシュケナージのモーツァルト

◆ウラディーミル・アシュケナージ

 

 今シーズンからN響の音楽監督は、ウラディーミル・アシュケナージという人です。旧ソ連から亡命した人です。

 その半生記を書くと長くなるので割愛します。

 とにかく、世界中の音楽ファンなら誰でも知っているこのような超有名人が、ついに日本のオーケストラの指揮者になったのかと思うと、30年間N響を聴いてきた私にとって、感無量です。

 自分で書くのも何ですが、聴く側だといっても、30年っていうのは並じゃないですよ。

 N響の今の若い楽員さんが生まれる前から、聴いているんだから。下手したら、彼よりはN響を知っている。

 なんてね。勿論弾く側の苦労に比べれば、大したことは有りません。



 さて、アシュケナージは、もともとピアニストです。最近、なんでも「超」をつけますが、この人が世界的にみて、「超一流」のピアニストであることは、好みの問題を通り越して、誰もが認めざるを得ないでしょう。

 アシュケナージのピアノは何がすごいか。勿論テクニックはある。それは、もう滅茶苦茶に上手い。

 しかし、何よりも彼を世界的たらしめたのは、その唖然とするほど美しい音色です。




 楽器は不思議なもので、同じピアノを弾いても、一人一人、違う音色がするのです。科学的にどう解釈するかは音響物理学とか何とかいう学者さんの分野でしょうが、要するに、同じフェルトを貼った、木のハンマーが鋼鉄の線を何トンという力で張ったものを叩くわけです。

 そのハンマーアクションの構造というのはとても複雑で、「よくもまあ、こんな仕組みを考えたものだ」と思います。

それはさておき、このハンマーは勿論、ピアニストが鍵盤を押さえることによって動くわけですから、動き出してから、弦(ピアノ線)に当たるまでの、わずかな加速度の違いが、音色の差になっているものと思われます。


◆モーツァルトピアノ協奏曲23番、27番の一枚は死ぬほど美しい。

 

 理屈はこのぐらいにして、それでは、アシュケナージの美音を堪能するのに、何から聞くのがよいかというとですね、簡単に選ぶのなら、ショパン夜想曲全集ですね。

「夜想曲」とは、「ノクターン」を日本語にしたものです。

 これはもう、どうにもこうにも、文句の付けようがない。

 日本の音楽評論の第一人者で、吉田秀和さんという方がいらっしゃいますが(ホロヴィッツが初めて日本に来たとき、あまりにひどい演奏だったんですが、これを「ヒビの入った骨董品」と形容したことで有名です)、吉田さんは、「このCD集の唯一の欠点は、全てが、あまりにも完璧な演奏であることだ」と言ったぐらいなのです。

 ちなみにこういう、沢山の曲が入った全集を聴くとき、真面目に最初から全曲通して聞く必要は全くありません。

 好きなところから聴いて、好きなところで止めればよいのです。

 それで、例えば、DISK2の8曲目、夜想曲第20番嬰ハ短調ってのを聴いてください。「戦場のピアニスト」で有名になったそうですが、私は見ていないのでしりません。とにかく、圧倒されます。そう、圧倒されるんですね。



 これに対して私は、まず、ショパンよりも先にモーツァルト:ピアノ協奏曲第23番&第27番をお奨めします。これは、「圧倒される」というよりも、「優しく包み込まれる」という感触です。参考までに書きますが、これはコンチェルトの「弾き振り」です。つまり、アシュケナージがピアノ協奏曲のソロを弾きながら、自分のパートが休みの時には、オーケストラを指揮しているのです。

 私は、この演奏を聴いたときに、「この世にこれほど美しいピアノの音色があったのか!」と思いました。

 曲は勿論素晴らしいです。モーツァルトってのは、駄作が無いのです。その中でも、この2曲は特に有名な部類に属します。ここのAmazonのカスタマーレビューの人と奇しくも私も同じことを思いました。

 つまりですね。この後、モーツァルトのピアノ協奏曲23番が大好きになりまして、いろんな古今東西の演奏を聴いてみたのですが、どうしても、このアシュケナージほど美しいピアノの音は聴けないのです!

 最初にこういう、本当の超一流の大天才が書いた名曲を、超一流の演奏で聴かないと、損です。間違った尺度が出来てしまう。

 ここから後は、書こうかどうしようか迷ったのですが、相手はカネを取っているプロだからはっきり書かせていただきます。

 このごろ、なんとかヘミングなんてオバサンがもてはやされています。これも、テレビの影響です。しかし、違う。あの人は技術もなければ美しい音も無い。

 ああいうのを褒める人は、忌憚なく言わせてもらいますが、ピアノを知らない人です。


by j6ngt | 2005-05-04 12:35 | 音楽


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