ラベルの誕生日です。「ボレロ」って知っていますか?

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◆オーケストラの魔術師

1875年3月7日に、後にフランスを代表する(フランスで他に有名なのはドビュッシーなどです)作曲家となる、モーリス・ラベル(1875~1937)が生まれました。

難しいことは、事典を調べれば、色々載っておりますが、要するに、ラベルは「オーケストラの魔術師」と呼ばれています。

オーケストラの各楽器の音色上、演奏技術上の特色をよーく知っていて、ある音楽のある箇所で、最もふさわしい音は何か?それは、どの楽器に出させるべきか?ということを、知り抜いていたのですね。



「展覧会の絵」という曲、名前ぐらいは聴いたことがある、あるいは、オーケストラで聴いたことがあると言う方、いらっしゃるでしょうが、もともとは、ロシアの作曲家、ムソルグスキーという人がピアノ曲として書いたものです。

それを、ラベルが全曲オーケストラ用に編曲したのです。だから、CDのラベルとかを良く読んでください。ムソルグスキー作曲、ラベル編曲となっている。

これは、しかし、オーケストラの方が原曲ではないかと思いたくなるような、文句のつけようがない編曲です。最初のプロムナードはトランペットソロで始まりますが、これをトランペットにした、というのが、いかにもラベルのセンスであります。

勿論、ラベルは編曲のみならず、自分の作品も沢山書いています。


◆「ボレロ」。空前絶後のユニークさ。

最も親しみやすく、エキサイティングなのは、「ボレロ」です。

ボレロは本来、スペインの舞曲のリズムで、普通名詞です。ワルツとか、ポルカとかいうのと同じことなのです。

しかし、今や、ボレロといえば、ラベルが作曲した(本来はバレエ音楽ですが)管弦楽曲の「ボレロ」のことを意味するようになりました。



「ボレロ」は、スネアドラム(小太鼓)のPPのソロで始まります(上の楽譜をご参照)。


この2小節で、一回。スネアドラム奏者は、全曲をとおして、ずっと、このリズムを繰り返します。

たしか、170回だったかな。ちょっとうろ覚えですが、とにかく大変。全員がこのスネアのリズムを聴いて、それに合わせるのですから、指揮者よりも責任が重いです。

特に、最初の4小節は「スネアドラム・ソロ」です。ピアニッシモなので、手が震えたりして、ちょっとでもリズムが崩れたら、台無しです(楽器は弱い音を出すときこそ、難しいのです)。



そして、ボレロのユニークなところは、2種類のメロディーが、あらゆる管楽器で、交互に繰り返されるだけ、ということです。

曲の頭がピアニッシモで、曲全体をとおして、次第にクレッシェンドしていって、最後の8小節になると、コーダという締めくくりの部分になるのですが、そこでは、打楽器も沢山入って、大変な音量となる。そして、コーダで、転調するのですね。もの凄くドラマチックな、転調です。最後は「芸術は、爆発だ!」という感じで終わります。

人間は同じリズムや言葉を繰り返していると、段々興奮してくるのですね。阿波踊りなんかもそれだと思います。ラベルはそのようなことも直感的に分かっていたのだと思います。


音楽は生の方がよいというのは、まさに「ボレロ」のためにある言葉ではないかと思われます。弦楽器は殆ど緊張しないのですが。管楽器奏者の緊張が並大抵ではありません。

ボレロに限って云えば、どんなに上手いオーケストラでも、完全に無事故ということはなかなかありません。誰かがトチると、その後の奏者がビビるし、逆に他人が皆上手く吹けば、自分も失敗は許されないので、プレッシャーとなる。嫌な曲なのです。

しかも、その緊張感は、聴衆にも伝わってきます。自分が吹くわけでもないのに、心臓がドキドキします。そこがたまらないのです。


◆緊張の極、トロンボーン・ソロ。

中でも、一番難しいとされているのが、トロンボーンです。

私は、いつも、トロンボーンソロの直前になると、思わず、手を合わせて祈ってしまいます。

以前、ある、プロのオーケストラのオーボエ奏者の方が書いておられましたが、オーケストラのメンバーも、全く同じ気持ちだそうです。

なにしろ、曲が始まってから10分近く音を全く出さず、いきなりソロで、mp(メゾ・ピアノ=やや弱く)で、トロンボーンの最高音域のB♭の音からはじまる、このトロンボーンソロは、いかなる名人でもいつでも成功するとは限らない。それぐらい難しいのです。

だから、トロンボーンが上手くいったボレロは泣けてきます。かつて、ボレロのトロンボーンという文章を書きましたので、詳しくはそちらをご参照下さい。



このような曲なので、管楽器奏者が「ボレロ」に抱く心境は複雑です。

「出来れば、あまり演りたくない。でも、出来れば上手くやって、拍手喝采、ブラボーを浴びたい」というジレンマがあります。



こんな形式の曲は後にも先にも、ラベルしか書いていません。同じメロディーを延々と繰り返すというのは、コロンブスの卵で、それまで、誰もやったことがなかったし、ラベルがこの曲を書いてしまったからには、同じ手法は使えません。一瞬で、「ボレロのまねじゃないか」といわれてしまうからです(ショスタコービッチというソ連の作曲家が交響曲第7番の中で似たようなことをしていますが)。

ラベルは、音楽の印象派で、実に「色彩感」のある音がします。他にも名作がたくさんあります。やはり天才としか云いようがありません。


◆おすすめCD

「ボレロ」が入った(ボレロだけだと15分ぐらいなので、他の曲とカップリングされています)CDは山ほどありますが、エキサイティング、ということでいいますと、クラウディオ・アバド、ロンドン交響楽団のこれ、でしょうね。

演奏の終盤にさしかかったところで、オーケストラのメンバーが興奮を抑えきれなくなって、思わず叫び声をあげています。

通常、CDでは、こういうところは編集でカットしてしまうものですが、このときは、指揮者のアバド(この前で、ベルリンフィルの音楽監督だった人です)が、「自然に出た声だから、このままでよい」と判断したらしいです。

クラシックのCDとしては、なかなか珍しいものです。


by j6ngt | 2005-03-07 16:40 | 音楽


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