「草彅剛氏公然わいせつ容疑事件」に関する法的考察、及び私的所感。

◆記事1:SMAPの草彅容疑者、泥酔し全裸で騒ぎ逮捕(4月23日14時35分配信 ロイター)

国内各メディアの報道によると、警視庁赤坂署は23日、人気グループSMAPのメンバー草彅剛容疑者(34)を

公然わいせつ容疑で現行犯逮捕した。同日午前3時ごろ、東京都港区の公園で酒に酔って全裸になった疑い。

草彅容疑者は、取り押さえようとする赤坂署員に対し、「裸だったら何が悪い」などと叫び、暴れながら抵抗したという。

草彅容疑者は地上デジタル放送普及のCMに出演しているが、鳩山邦夫総務相は今回の事件について、

事実とすればめちゃくちゃな怒りを感じる」と語った。


記事2:草彅 剛容疑者逮捕 草彅容疑者宅を家宅捜索 薬物の簡易検査実施も検出されず(4月23日(木) 17時27分 フジテレビ)

公然わいせつの現行犯で逮捕された「SMAP」の草彅剛容疑者(34)の自宅に23日午後、家宅捜索が入った。

23日午後、身柄が原宿警察署に移された際は、まだ酒が抜けていない状態だったということで、

警視庁は話を聴ける状態ではないと判断し、取り調べは23日は行われていないという。

警視庁は23日午後、草彅容疑者宅を家宅捜索しているが、裸になることに常習性があったかどうかなどを調べる狙いがあるとみられている。

草彅容疑者は22日夜、現場の公園から直線距離でおよそ400メートルほど離れた赤坂の居酒屋で、

知人の女性と、さらにもう1人の知人男性のあわせて3人で酒を飲んでいたという。

この2人は、著名人やテレビ関係者ではないという。

その後、居酒屋を出た時間は明らかになっていないが、草彅容疑者は知人女性と2人でタクシーに乗り、

午前2時、現場の公園の階段付近で、草彅容疑者だけがタクシーを降り、知人女性はそのまま帰宅したという。

草彅容疑者が全裸になり、公園内で騒ぎ始めたのは、その直後のことになるとみられる。

また草彅容疑者は逮捕時、意味不明な言葉を叫んでいたことなどから、警視庁は、薬物の簡易検査を実施したが、薬物は検出されなかったという。

警視庁は24日、草彅容疑者を送検して、当時の状況などをくわしく調べることにしている。


◆記事3:草彅容疑者、地デジメーンキャラ降板へ=鳩山総務相「めちゃくちゃな怒り」(4月23日12時48分配信 時事通信)

鳩山邦夫総務相は23日、地上デジタル放送普及促進のメーンキャラクターを務める人気グループSMAPの草彅剛容疑者が

公然わいせつの容疑で現行犯逮捕されたことに関し、

「事実関係を把握していないが、事実だとすれば、めちゃくちゃな怒りを感じる」と語った。

その上で、「地デジ関係のいろいろなものは全部取り替える」と述べ、メーンキャラクターを辞めさせる意向を示唆した。

2011年7月の地デジへの完全移行への影響については「ゼロとは言えない」と語った。


◆コメント:被疑者が「芸能人」だった以外は格別珍しい出来事ではない。

今日は、マスコミの使い古された、紋切り型の形容で、わざと誇大に表現するならば、

「日本列島に激震が走った」が、酔っぱらいが夜中の公園で全裸になって騒いでいたところ、

警察に捕まったと言う話であり、珍しくもない。

新宿の歌舞伎町では、「全裸」はあまりいないだろうが、酔っぱらい同士の喧嘩など、毎日起きている。

ただ、本件は、逮捕された被疑者が非常に人気のある「芸能人」だった

という点だけで、騒いでいる。

無数のブログがこの件に関して書いているが、感情論ばかりである。ここでは法的かつ論理的に考察したい。

なお、マスコミは「容疑者」という言葉を用いているが、正しくは現時点で草彅氏は、「被疑者」というのが正しい。

「被疑者」とは、

ある犯罪を犯した疑いで、司法捜査当局による捜査の対象となっているが、起訴されていない者

である。後述するが、「被疑者」は犯罪を犯したと疑われているが、法的には「無罪」との推定が為されなければならない。


◆わいせつに関係する犯罪。犯罪の重さを測る尺度。

草彅被疑者は「公然わいせつ容疑」で逮捕された。「公然わいせつ罪」に関して刑法が定めているのは、

刑法174条 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

ということである。

「わいせつ」に関係する罪としては、強姦や、強制わいせつがあるが、公然わいせつはこれらと重さが異なる。



或る行為を刑法で「犯罪である」と規定することによって、守ろうとする国民の利益を「保護法益」という。

例えば、殺人罪の保護法益は国民の生命であるし、窃盗罪の保護法益は国民の財産・所有権である。

強姦罪と強制わいせつ罪の保護法益は、個人の性的自由(昔の言葉をわざと遣うならば、「女性の貞操」)である。

故に、これを犯すことは重大な犯罪である。

一方、公然わいせつの保護法益は、「善良なる風俗」という漠然とした「国民の利益」である。


18世紀のイタリアの啓蒙思想家、チェザーレ・ベッカリーアという人は、著書「犯罪と刑罰」において、
犯罪の重さの尺度は、本来、社会に与えた損害の程度による

と書いている。因みに、チェザーレ・ベッカリーアは「罪刑法定主義」を提唱した学者である。


ベッカリーアの「犯罪の重みの尺度」を基準に考えると、公然わいせつの犯罪の重みが、

強姦、強制わいせつに比べると、ずっと軽微であることは、明らかである。

草彅被疑者の行為は真夜中に全裸で大声をあげたということであり、大声はともかく、

真夜中の公園で全裸になる行為自体は、特異ではあるが、「社会に与えた損害の程度」は、

非常に小さい。刑法174条で定められた刑罰を科するに値するとは到底考えられない。

率直に言えば、普通ならば、交番へ連れて行かれ、
「早く帰りなさい。二度とやらないように」

と説教されて放免となってもおかしくない。

警察が犯人を逮捕した場合は48時間以内に検察に身柄を検察に送る。これは刑事訴訟法で定められている。

草彅被疑者は24日に送検されるのは法的に避けられない措置である。

しかしながら、公然わいせつで、尿検査から薬物も検出されなかった被疑者の家宅捜索をするのは、

どうも、解せない。記事2に、
裸になることに常習性があったかどうかなどを調べる狙いがあるとみられている。

と書かれているが、そんなことは、家宅捜索したところで分かる訳がない。これは建て前で、

恐らく、簡易検査では薬物が検出されなかったが、自宅には覚醒剤か麻薬があるのでは、と警察は睨んだのだろう。

仮に、被疑者が一般人だったら、そこまでするのかどうか。何とも言えないが、被疑者がたまたま有名芸能人であり、

もしも彼が薬物を違法に使用していることが分かったら警察の「お手柄」になる、という目論見だったとしたら、

それは、日本国憲法で保障された、法の下の平等に反する。

日本国憲法第14条第1項。
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

のである。


◆鳩山総務相、「めちゃくちゃな怒り感じる」とのことですが、2月、G7後の記者会見に泥酔状態で臨んだ中川・元財務相はどうなの?

鳩山邦夫総務相という人も日本郵政にゴチャゴチャ文句付けたり、色々パフォーマンスの多い人だ。

草彅氏の件に関して、「めちゃくちゃな怒り感じる」そうだが、草彅被疑者は送検されても、起訴されるかどうか、分からない。

日本の刑事訴訟法では、被疑者を起訴するかどうか、つまり裁判にかけるかどうかは、検察の裁量に委ねられている。

起訴されたら、被告人と呼ばれる。しかし、現時点は勿論のこと、仮に起訴されたとしても、有罪判決が確定するまでは、

「無罪推定原則」が働いていることを忘れてはならぬ。近代刑法の大原則。

「何人(なんぴと)も有罪判決が確定するまでは無罪と推定される」

べきなのだが、日本では「逮捕された=犯罪者」という認識が一般に広まっている。

これは、マスコミがそういう報道をするからである。

日本のマスコミは松本サリン事件で、無実である被害者の夫を、

殆ど100パーセント犯人確定のように報じるという、大失態をしでかしたのに、全然、経験から学ばない。

マスコミだけならまだしも、行政府たる内閣の閣僚の一人である鳩山氏があたかも草彅被疑者の有罪が確定したかのごとき、

ミス・リーディングな(誤解を招くような)発言をするべきではない。


また、皆、直ぐ忘れるが、2月にローマで開かれたG7後の記者会見に、誰が見ても明らかな泥酔状態で臨んだ中川前財務相は

世界中にみっともない姿をさらし、日本国及び日本人に対する、他国の人々のイメージを大いに悪化させた。

これは、刑法上の如何なる犯罪の構成要件にも該当しないが、国家に与えた損害は、草彅被疑者の比ではない。

鳩山総務相は、草彅被疑者に「めちゃくちゃな怒り感じる」ならば、中川氏に対してはどのように感じたのか、

是非、答弁をうかがいたいものである。

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by j6ngt | 2009-04-23 23:00 | 芸能界


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